日本人はどの位AIを使っているかご存じでしょうか? 2025年7月、総務省が出した数字では、生成AIを使っている日本人の割合は、26.7%でした。
同じ調査で、中国は81.2%。アメリカは68.8%。ドイツは59.2%。それと比べると、日本の少なさは圧倒的です。
企業に絞っても同じです。業務でAIを使っている会社は、中国95.8%、アメリカ90.6%、ドイツ90.3%。日本は55.2%でした。
こうやって比較すると、ため息が出ます。「ああ、日本はまた負けているのか」と思ってしまいます。
ITに弱い日本、また日本は出遅れてしまっているのでしょうか。検証していきたいと思います。
実は「仕事で使う人」の割合は、世界と変わりません

野村総合研究所が2025年秋に出した、日米中独の比較データがあります。
「仕事でAIを使っている人」の割合は、日本47.6%、アメリカ48.4%、ドイツ46.1%。
——ほとんど同じなのです。
日本人がAIを使えないわけではありません。仕事で必要に迫られた現場では、ちゃんと世界と肩を並べて使っています。
では、何が決定的に違うのでしょうか。同じ調査では、こうなっています。
- 毎日のように使う人:日本35% / 中国86%
- お金を払って本気で使う人:日本15% / 中国65%
差が出ているのは、能力ではありません。「たまに使う」か「当たり前に使う」かの差なのです。
「無料で少し触っただけ」で、AIを語っていませんか
お金を払ってAIを使っている日本人は、たった15%。中国は65%。4倍以上の差があります。
なぜこれが致命的なのか。無料版と有料版で、触れているAIがまるで別物だからです。
無料で少し触った人は、こう言います。「AI? 使ってみたけど、たいしたことないね」「ときどき嘘をつくし、信用できない」と。
——その人が触っているのは、最新モデルでも、本気の使い方でもありません。料理で言えば、試食コーナーのひと口だけを食べて「この店、たいしたことないな」と帰っているようなものです。
本当の良さは、課金して、毎日使い倒して、自分の仕事でとことん使い、失敗して修正して初めてわかります。そこまでやった人だけが、「これはもう道具じゃない」と気づくはずです。
無料でひと口かじった大多数は、その入り口にすら立っていません。「AIってこんなものか」という日本人の感想そのものが、世界との差なのです。
そろばん、電卓、エクセル、そしてAIへ
ここで、ITの歴史を思い出してみてください。
昔、計算はそろばんでやっていました。やがて電卓が出たときは「そろばんの方が速い人もいる」と言われていましたが、いつのまにか電卓が当たり前になりました。
電卓の次はエクセルです。「手で計算した方が早い」「関数なんて使わない」と言っていた人は、いつの間にか仕事を失いました。エクセルが使えることは、もはやスキルですらありません。できることが当たり前の「前提」です。
そろばんも電卓もエクセルも、登場したときは「便利な新しい道具」でした。けれど本当の変化は、それが道具からインフラに変わった瞬間に起きています。電気や水道と同じで、「使うかどうか」を選ぶものではなくなりました。使っていない方が異常、という状態になったのです。
AIにおいて、今まさに同じことが起きているのですが、多くの人がまだそれに気づいていないだけです。
ガラケーの教訓
日本の技術力を皮肉る「ガラケー」という言葉があります。ガラパゴス・ケータイ、つまり「世界から孤立して独自進化した日本の携帯電話」という意味です。
性能だけなら、日本の携帯電話は世界の先を行っていました。おサイフケータイも、ワンセグも、絵文字も、日本が先でした。
それでも、世界のスタンダードにはなれませんでした。理由は機能や性能ではありません。世界がスマホという新しいインフラに乗り換えていたのに、日本はそれまで築いた技術にあぐらをかき、新しいインフラに組み込むのが遅かったのです。
同じことが、AIエージェントの数字にも表れ始めています。世界では登場からわずか2年で35%の企業が導入し、44%が「もうすぐ入れる」と言っています。対して日本企業の導入は29.7%。そして日本の中小企業のAI活用は、わずか16%です。
「うちはまだ必要ない」「しばらく様子を見よう」「やらなくてもなんとかなる」——これらの言葉は、ガラケーのときと似ています。
「苦手」「怖い」と言っている時間は、もう残っていません

「AIは苦手」「なんだか怖い」「まだ信用できない」と思っている人は、そう言っている間にも、差は開き続けています。しかも、開く速度が年々上がっています。
エクセルを業務で使っていない人は、RPAなどの業務改善のことを理解できません。そういう人がAIを使っても、どう業務に結びつけたらいいか想像がつきません。AIリテラシー以前に、ITリテラシーが低いからです。
この先、AIの世界はおそらく今より訳が分からないほど進化します。今ですら追いかけるのが大変なのに、入り口に立つのが1年遅れれば、差は1年分どころでは済まなくなります。
数年後、AIは電気や水道のように誰もが使うようになり、生活と仕事に自然に溶け込んでいるでしょう。
ビジネスにおいては、二つに分かれます。一方は、AIの仕組みも原理も分からないまま、ただ言われた通りに「AIを使う人」。与えられたものを消費するだけの側です。もう一方は、AIがどう動くかを理解し、それを駆使して、新しい価値を生み出す「イノベーションする側」。
スマホを「ただ使う人」と、スマホの上にアプリやサービスを作って世界を変えた人の差と同じです。後者は、早く飛び込んで、原理から理解しようとした人たちでした。
他国に、他社に、隣の同業に負けないために、いち早く、AIを「駆使する側」、「イノベーションを起こす側」に立たなければなりません。受け身で「使う人」になってからではもう遅いのです。
絶望ではなく、好機だと捉える
日本人はAIを使えないわけではありません。必要に迫られれば、ちゃんと世界と同じだけ使えます。足りないのは能力ではなく、「これはインフラなんだ」という認識の切り替えと、課金して本気で触る一歩だけです。
最大の好機は、大企業との差が小さくなることです。中小企業の活用が16%ということは、横並びでみんなスタート地点にいるということです。
資本力の差が出にくいことも利点です。AIは月数千円から始められ、今まで沢山のプログラマーが何年もかかって開発していたプログラムは数日で開発できるようになりました。
最初に「道具」ではなく「前提」として入れ、「駆使する側」に回った中小企業が、業界の中で一気に抜け出せます。
必ず使うものだという前提にする
「AIを、たまに無料で触る便利な道具だと思っているか。それとも、お金を払って毎日駆使して、事業を変える前提インフラだと思っているか」。ここで大きな差が出ます。
そろばんを電卓に持ち替えた人が生き残りました。そして、電卓をエクセルに持ち替えた人が生き残りました。
次は、あなたの番です。AIを「使う人」にならないようにしてください。「駆使する側」に回ることを意識してください。
(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」2025年7月/野村総合研究所 日米中独AI利用調査 2025年/日経BP・BCG×MIT SMR AIエージェント導入調査 2025年)

